猫と一緒に入れる墓、喪中はがき..."生前ペットロス"の乗り越え方

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2017.12.26 07:00週刊朝日

猫と一緒に入れる墓、喪中はがき...

猫と一緒に入れる墓、喪中はがき..."生前ペットロス"の乗り越え方

  

室内飼いが増え、長生きするようになった猫。深く愛される一方で、別れは飼い主にとって耐え難いものになっている。体験者の話に耳を傾け、「そのとき」の心のありようを考えた。


「体重は減り、目の輝きが消え、細胞の一つひとつが"シャットダウン"するさまを目の当たりにしました」

 神奈川県に住む熊谷弘行さん(66)は先月、愛猫ベルを亡くした。享年204カ月。人間に換算すると100歳超の大往生だった。

「私たち家族にとって初めてのペットで、ずっと健康でした。昨夏、階段から落ちて腰の骨を折り、獣医さんから寝たきりになると言われました。排泄介助が必要と診断され、オムツをつけながらがんばって、再び歩けるまでになったんです」

 たくましい命の灯が消えた日、妻、娘、娘婿、息子と家族全員が仕事を早く切り上げ、ペット斎場に集まって火葬に立ち会った。斎場の係員によると、年の割に歯や骨がしっかりして、崩れていなかったという。「悔いはないのですが、しばらく、ベルの"不在"に混乱しました......」

 熊谷さんは取り込んだ白い洗濯物を見て「ベルだ!」と錯覚したり、無意識にトイレの中を捜したりした。妻淳子さんも「生きがいを失った」と、ぼんやりすることが増えたという。

 ペットフード協会によると、室内飼いの猫の平均寿命は2016年に15.81歳。ともに長く暮らすだけに悲しみも深くなる。

 東京都内に住むヘルパーの女性(52)は一昨年、アメリカンショートヘアの「ラッキー」を肺がんで失った。享年11歳だった。「キャットタワーの上で急にせきを始め、病院で調べたら末期。無症状でわからなかったのです」と振り返る。

 手術できない状態だったので、在宅介護のために「酸素室」を借りて居間に置き、添い寝した。「あっと言う間の別れで、何もしてあげられなかった」と話す。

 家族も猫好きで複数飼いをしているが、ラッキーを見送って間もなく、15歳の雌猫のミャーが腸の病気に。「今年手術したのですが完治は難しくて。夫は溺愛しており、(前の"子"の分まで)猫を世話しながら目を潤ませています」

 

 愛猫が闘病生活に入ると、こうした"生前ペットロス"に陥る人も少なくない。うつやひきこもりにつながることもあるようだ。

 少子化や核家族化で、ペットが大切な家族という人は多い。悲しみの深さは、時代も関係しているのだろうか。開業から54年、ペットの治療に携わる赤坂動物病院の柴内裕子・総院長は「近年、人と猫との距離が近づいて、別れがより切実になっている」と話す。

「猫は本来、犬以上に独立心があり単独行動を好みます。昔は自然の中でひっそりと亡くなりましたが、(自然が少ない)現代では自由に外に出られません。大事にみとられることは猫にとって幸せになりますが、猫に対する飼い主の気持ちも深くなり、苦しむケースが多くなっています」

 完全な室内飼いだと、感情移入がより深まる。重度のペットロスに陥るときは、夫の死去や子どもの独立など人間関係の変化も重なるケースが多いようだ。

「猫との別れを、人生に起きた不幸と思わないことが大切。3年でも5年でも、自分に連れ添ってくれたことへの感謝が生まれると、気持ちも楽になります」

 例えば、猫が難病になったら、がんばったねとたたえる心で見送ってほしいという。

「悲しみの度合いや感受性は人それぞれですが、お別れを体験した人と話すと、学びや励ましもあるでしょう」と柴内さんは話す。

 死を周囲の人に話すことで救われることもある。

 ペット用仏壇・仏具専門店「ディアペット」は10月、喪中はがき(全7種、10枚セットから)を売り始めた。愛猫の写真を入れ、生前の感謝やお別れを報告できる。

「ペットを失った方は『新年おめでとう』の気持ちにはなれないでしょう。その意思表示ができ、『猫ちゃん元気?』と聞かれて胸を痛めることも減ると思います」(関口真季子取締役)

 ペットの死を伝えるという、昔ははばかられた思いを今や堂々と言える時代になったのだろう。2カ月で2千枚と想定の10倍売れた。

 

 利用者からは、「こうして儀式的なことをする中で少しずつ癒やされ、(死を)受け入れられる」「喪中はがきを出すことで、一歩前に進める」など好評という。

 猫と一緒に入れるお墓を探す人も増えてきた。

 神奈川県在住の女性(64)は7年前、夫を突然亡くした。そのときに、猫と人のお骨を一緒に納められる墓地を都内で購入した。

「主人は無類の猫好きで、家や会社で猫を飼い、『自分が死んだら猫と埋めてね』が口癖。ネットでお墓を探して実現させました」

 お墓を訪ねると、墓石横に大きな猫形の墓誌が並び、「マリ」「キンタ」と刻まれていた。お骨の場所は地下で仕切られているそうだ。

「キンタは20年前亡くなった日本猫で、マリは7年前、主人のあとを追うように亡くなったロシアンブルーです。家には、主人が亡くなる1年前に迎えたソマリの『チイ』がいます。子どもが自立し、今はチイと"ふたり"暮らし。いずれ見送るのはつらいですが、お墓でも一緒だと思うと不思議と落ち着きます」

 猫の墓誌を含めた区画永代使用料は550万円。それを見て「うちでも」と考える愛猫家がいるという。

 つらい別れを乗り越えるために必要なのは、時間なのか、心のあり方なのか。

 実は筆者の自宅にも二つの遺骨がある。14年前と3年前に見送った愛猫だ。ともに長い闘病の末、自分の腕の中でみとったが、最初に迎えた「クロ」の死後、ずいぶんと落ち込んだ。同じ色の猫を見かけるたび、涙が止まらなかった。体重が5キロ落ち、仕事も休んだ。

 そんな自分を救ったのは、獣医師の一言だった。

「あなたは地球上の命を預かっていたんですよ。よくお世話をしましたね」

 そう言われたとき、「私の猫」が大きなものに包まれる感覚になった。愛らしい鳴き声や柔らかな毛並み、甘えるしぐさ......。次々とよい思い出がよみがえり、新たに迎える猫を愛する力に変わっていった気がした。(藤村かおり)

週刊朝日 20171229日号

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このページは、petsougi-newsが2018年1月 5日 15:28に書いたブログ記事です。

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